海外で会社を経営していると、税務調査だけでなく「労働局による査察」に遭遇することもあります。
ある日突然、担当官がやってきて、従業員の契約書や残業記録を細かく確認していく。そんな場面を初めて経験したときの緊張感は、今でも鮮明に覚えています。
今回は、私が体験した労働局による査察のリアルと、ASEAN主要国の労働法にも少し触れながら感じたリスクと教訓を共有します。
1.査察は突然やってくる
労働局による査察は事前通告なしにやってくることも珍しくありません。対象は大企業に限らず、小さな外資系企業でも例外ではないのです。
解雇手続きや就業契約書の不備、残業や休日管理、社会保険や福利厚生の加入状況まで幅広くチェックされます。こちらに悪意がなくても「法令上の要件を満たしていない」と判断されれば指摘を受け、最悪の場合は罰金に至ることもあります。
2.ASEAN各国の労働法に潜むリスク
ASEAN主要4カ国でも、労働法にはそれぞれ特徴があり、外資系企業にとって思わぬリスクとなります。
- ベトナム:解雇要件が非常に厳しく、一定回数の契約更新後は無期雇用に転換されます。残業時間の上限規制も厳格です。
- マレーシア:「Employment Act」で低所得層を強く保護。休日労働や残業の割増率が細かく規定され、労働組合の影響力も強い国です。
- インドネシア:解雇時に高額の補償金が発生するのが特徴。最低賃金は市や州ごとに異なり、改定幅も大きいため常に最新情報を押さえる必要があります。
- タイ:退職金制度や解雇通知期間が厳格に定められ、外国人雇用許可(ワークパーミット)の不備にも厳しい罰則があります。
こうした国ごとの違いを理解せずに経営していると、ある日突然の査察で痛い目を見ることになりかねません。
3.実際に経験した査察の現場
私が経験した労働局による査察では、解雇手続きに関する書類を細かくチェックされました。
日本の感覚では「正当」と思える解雇理由でも、現地の法律では「不当」と判断されることがあるのです。その結果、労働局の指導に従わざるを得ず、更なる補償金や退職金を支払ったこともありました。
「現地の常識」を軽視すると、予想外のコストを背負うことになる。これが海外経営における現実だと痛感しました。
4.そこから得た教訓
労働局査察を経験して学んだのは、「備え」がすべてだということです。就業規則や契約書は現地法に基づいて整備し、常に最新の法改正をチェックする必要があります。
また、場合によっては顧問弁護士や労務コンサルタントと連携して、いつでも相談できる体制を築くことが安心につながります。(ただし、弁護士の中には不備を突いて逆に強請るような例も耳にするため、信頼できる専門家を選ぶことが前提です。)
小さな外資系企業だから大丈夫だろう、という油断こそが最大のリスクだと痛感しました。
5.労務リスクも「突然やってくるもの」と心得る
東南アジアで経営を続ける上で、労働局による査察は避けられない現実です。
国ごとに違う労働法の特徴を理解し、常に整備と点検を怠らないこと。それが突然の査察に備える唯一の方法です。
税務リスクと同じく、労務リスクも「いつか来るもの」と心得て、日々準備しておくことが、海外で生き残るための必須条件だと感じています。
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