「現地スタッフに会計資料をどこまで開示すべきか?」
これは、東南アジアで小さな会社を経営する私にとって、長年の悩みの種でした。
数字を見せれば育つのか、それとも混乱を招くのか。
理解されない前提で、どこまでオープンにすべきなのか。
今回は、そんな葛藤と試行錯誤の記録をお話ししたいと思います。
1.マネージャー以外、数字を「見せても分からない」現実
私はこれまで、現地スタッフに対してなるべくオープンに数字を共有するよう努めてきました。たとえば月の売上や利益、原価率、固定費の構成など。しかしある時ふと気づいたのです。「そもそも、この数字を“読める”のはマネージャークラスだけではないか?」と。
現場スタッフに伝えても、多くの場合「で、それがどうしたの?」という反応になります。数字を見せれば意識が変わると考えていましたが、実際にはその“前提”となる数字感覚が根付いていない。これが現実でした。
2.マネージャークラスですら、“読めても判断できない”
では、マネージャーにだけ伝えればいいのか?そう考えて、毎月の経理報告を一緒に確認しながら説明を続けました。売上や利益の増減については徐々に把握できるようになってきたものの、その次の段階——“なぜそうなったのか?”や“次にどうするべきか?”という議論になると、話が止まってしまうのです。
分析力や経営判断力は、簡単には育ちません。数字を追うだけでなく、その背後にある要因を読み解く力をどう育てるか。ここに、今まさに直面している壁があります。
3.結局、経営判断は私一人で下すしかない場面が多い
現在、最終的な判断はほとんどの場合、私一人で下しています。たとえば、利益が思ったより出なかった月に「何を削るか」「どこに投資するか」を決めるのは、社長である私しかできないのです。もちろん、それがスピードや柔軟性という小さな会社の強みでもあります。
ただ同時に、「このままでいいのか?」という不安もあります。今後会社が成長していくためには、すべてを一人で抱える体制には限界があると感じています。
4.「見せて育てる」か、「任せられるまで隠す」か
経営数字を見せることは、単なる情報共有ではなく、教育でもあると思っています。見せない限り育たない。だからこそ、私は基本的に“見せる派”でした。
しかし、誤解を招く場面もありました。たとえば「利益がたくさん出ている」と勘違いされて昇給やボーナスの期待が高まったり、「数字を公開する=評価される」と受け止められてプレッシャーになったり。伝え方や範囲を誤れば、逆効果にもなり得るのです。
5.これからの課題:数字を“共有”から“活用”へ
今、私が意識しているのは「共有すること」から「活用できる状態に導くこと」への転換です。数字をただ見せるだけでなく、それをどう理解し、どう活かすか。その“使い手”を育てる必要があります。
現地スタッフの中から、「この数字はこう解釈すべきだ」と言える人が育てば、経営は確実に変わります。現場の判断力が上がれば、“任せる”領域もさらに広がる。これは、私の会社がこれから成長していくうえで避けて通れない課題です。
今も試行錯誤が続いていますが、この葛藤こそが東南アジアにおける「経営のリアル」なのだと強く感じています。
6.“見せる”のは手段、“育てる”のが本質
経営数字を見せるべきか。その問いの奥には、「育てたい」「任せたい」という思いがあります。
数字を共有することはゴールではなく、スタートラインにすぎません。その先に必要なのは、数字を読める力、分析できる視点、そして経営に参画するマインドです。
小さな会社だからこそ、ここを乗り越えられるかどうかが未来を左右する。私はそう信じて、これからも根気強く現地スタッフと向き合っていきます。
Dexta
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