東南アジアでの人材採用は「ゴール」ではなく「スタート」とも言えます。
履歴書や面接を通過して採用されても、数日、数週間で辞めてしまう人も少なくありません。以前の記事でも触れましたが、極端な話、初日のお昼休みにはいなくなるような人もいたほどです。(笑) 私自身、これには何度も頭を抱えました。
では、どうすれば現地スタッフに長く働いてもらえるのか。ここでは、実際の現場での経験を交えながら、定着率アップにつながった工夫をお伝えします。
1.「居心地の良さ」が第一歩
給与体系や人事評価制度も大切ですが、まずは「ここで働きたい」と思ってもらえる環境づくりが欠かせません。
実際、食堂で支給される食事の質や休憩スペースの快適さといった細かい点が、スタッフのモチベーションを大きく左右していると感じます。特に通勤時間は意外な盲点で、長ければ長いほど本人にとって大きな負担となり、早期離職の要因になりかねません。
結果的に「居心地が悪い」と感じれば、給与が良くても辞めてしまうことも多々あります。だからこそ、物理的な環境改善や日々の小さな気配りが、離職防止の第一歩になると痛感しました。
2.「お金」以外の動機づけを意識する
東南アジアのスタッフは「安定して家族を支えられるかどうか」を重視する傾向があります。
私が印象に残っているのは、昇給よりも交通費や役職手当、皆勤賞といった制度面を強く気にしていたスタッフです。給与だけでなく、役割や責任を持つことで「自分は信頼されている」と感じることがモチベーションにつながります。
お金を超えた「誇り」や「安心感」を提供できるかどうかが、長期定着の分かれ目だと実感しました。
3.給料は「いくらでも良い」を信じない
採用面接で「給料はいくらでも良い」と言われると、つい鵜呑みにしそうになります。
しかし、その言葉を信じて低めに設定すると、後になって「やっぱり条件が合わない」と退職につながるケースが多々ありました。逆に、有望な人材ほど自分の市場価値を理解しています。希望額を丁寧に聞き出し、相手が納得できる水準で雇用することが大切です。
短期的なコスト削減を優先するよりも、長く働いてもらえる条件を整える方が、結果的に会社にとって大きなプラスになると感じます。
4.悩みを抱え込ませない仕組み
突然退職を申し出たスタッフに理由を尋ねると、「実は数カ月前から悩んでいた」と打ち明けられたことがありました。
日頃から元気がない、集中力を欠いている様子に気づきながらも声をかけなかった結果、手遅れになることもあります。それ以降、私は毎日現場に入り出来るだけ声を掛け、同僚を通じて声を拾ったりするようにしました。
小さな不安を早い段階で解消できれば、退職を防げることも少なくありません。「気づいてもらえない」ことが一番の不信感につながるのだと思います。
5.新人を孤立させない工夫
新しく入ったスタッフが古参の社員に冷遇され、数週間で辞めてしまったこともありました。
古参スタッフにとっては「新しい人材が自分の立場を奪うのでは」という不安があったのです。そこで私は「新戦力は脅威ではなく、会社の成長を助け、最終的には自分たちの待遇改善にもつながる」と繰り返し伝えました。古参スタッフの不安を和らげると同時に、新人にも「歓迎されている」と感じてもらえるよう工夫しました。
結果として、チーム全体の空気が改善し、離職率も下がりました。
6.学びの場を提供する
スタッフに「ここで成長できる」と思ってもらえるかどうかは、定着に直結します。
以前は研修制度を整えていませんでしたが、経験者が新人を教える仕組みを取り入れると、現場の雰囲気が大きく変わりました。新人は安心して学べ、ベテランは「自分が頼られている」と感じる。
こうした相互の関係がチームの結束を強め、辞めにくい環境を作っていきました。特別な仕組みを導入しなくても、小さな工夫で「学びの場」を作れるのです。
居心地の良さを整え、お金以外の動機づけを意識し、納得できる給与条件を整え、悩みを早めに拾い、さらに新人が孤立しない環境と学びの場を提供することで、スタッフは「ここで働き続けたい」と思えるようになります。
人材マネジメントの本質は、採用後にこそあるのだと強く実感しています。
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